研究概要 |
本研究は、2~5歳までの幼児とその養育者を対象に、養育者の明示的な心的状態に関連する言語インプットと子の心の理論の関係を量的な縦断データに基づいて検討することによって、養育者の言語インプットの量的な違いが日本の幼児の心の理論発達の差に関連していることを明らかにすることを目的としたものである。第2次調査および実験として、44組の母子を対象に、絵本課題を実施し、母親が絵本にでてくる状況を描写する際に、どのような心的状態に関連する言語インプットを行うかビデオ画像として記録した。また子については、第一次調査の感情理解、視線や指差しによる参照行動の理解、欲求と感情の理解に関する課題に加え心の理論課題を実施した。これに加え絵本課題から得た母子の相互作用をもとに,心的状態語のデータを分析した。第一次・第二調査データ縦断的なデータの分析および,欧米の先行研究データとの比較を行い,その結果について,国内外の学会および国際学術雑誌への論文掲載を通して,研究成果の発表を行った。2歳から3歳にかけての日本の子ども社会認知的能力の発達変化は,欧米の子どもと比して大きく異ならないことが示された。また,これらの4歳以前の心的表象能力は,第一次調査において収集した2歳半から3歳にかけての子どもの心的状態語の使用と有意な相関がみられるとともに,これらは,第二調査時の社会的認知能力を有意に予測することが確認できた。加えて,絵本課題から収集した母親の心的状態語の使用割合と子の社会的認知能力の発達との関連性についても,欧米の研究結果と類似した関連性がみられ,第一調査における母親の言語が子の以後の発達を予測することが示唆された。これらより,子どもの心的状態語の獲得に母親の言葉掛けの役割が大きく貢献していると考えられる方向性が示された。
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