本年度の研究では、TOM行動の認識における男女差について検討した。その結果、TOM行動の認識については、男性に比べ女性のほうが優れることが明らかになった。また、目や表情など顔の部位について、男性よりも女性のほうが優れることが認められた。他方、耳の部位については、女性に比べ男性の方がTOM行動の認識に優れることが示された。これらの結果は、TOM行動における認識について男性と女性の差は、身体のどの部位から心を推測する情報処理に差が見られることを示唆している。 また、TOM行動に認識における母親の育児不安や情緒不安がどのように影響するのかを検討した。その結果、母親は目、表情、話し方を手がかりとして心の状態を推測していることが明らかになった。特に、育児不安が心の推測に強く影響することが示された。また、異なる年齢の男児と女児を持つ母親について差が見られることも明らかになった。母親の特徴として、目、表情、話し方が、鼻・耳に比べてTOMの認識が優れていた。また、表情や話し方のように、情報量の多い身体部位における情報の変化に基づいて、他者の心の状態を推測することが母親にとって容易であることも明らかになった。また、情緒不安との関係においては、目・表情・話し方が、耳と鼻に比べ有意に高かった。低情緒不安群では、目・表情・話し方が耳よりも優位に高かった。 これらの結果は、TOM行動を認識の過程において、育児不安や情緒不安が影響していることを示唆している。また、このことは、母親の不安が強くなることによって、母親の子どもの心の状態の認識にネガティブな影響を与えることを示唆している。
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