本研究では、離婚母子家庭の子どもの成長過程において、別れて暮らす父親とどのような関係性が形成されるかについて検討を行った。調査方法は面接調査で、母子家庭で子どもを養育する母親、および母子家庭で育った青年を対象にして行われた。多くの場合、離婚に至る両親に不和によって子どもは傷つきを被っており、離婚後の生活再建とともに、傷つきからの回復がなされていく。その際、父親がどのように関わるかという点について、(1)母子が希望するにもかかわらず、父親が拒絶している場合には、深刻な喪失感を残し、母子の精神的健康にも長く悪影響を残すことになる。(2)離婚後関わりが継続している場合には、児童期に、頻繁に自宅に訪れて、それまでの関係性を継続していたというまれな事例を除けば、遊び相手の父親、プレゼントをくれる父親として、子どもに認識される場合が多く、そこでは、父親の子どもに対するしつけや教育的機能よりも、子どもを喜ばせようとする機能が優先される。そして、思春期になると、父子関係に大きな変化が見られる。子どもが心理的に独立し、「遊び」や「プレゼント」をくれるだけの父親を必要としなくなる場合、養育費などの供給者としてのみ父親が認められる場合、さらに、子どもが何らかの苦境に立たされた時に、父親に頼り、父子の新たな関係が構築される場合などがみられた。これらの背景には、子どもによる離婚の意味づけ、父親への意識的・無意識的感情、母親との3者関係の力動、そして、父親の成長など父親側の要因が存在する。父親と子どもの良質な関係維持のためには、子どもによって離婚に前向きな意味づけがなされていること、父親との関わりを子どもが自己選択できること、父子および両親間の感情的な葛藤がある程度解消されていること、両親間に子育てをめぐる最低限の協力関係ができていることなど、そして、子どもと共に、父親が成長していくことが必要であろう。
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