本研究は、アジア・太平洋戦争期の日本陸軍兵士に発症した戦争神経症の実態を国府台陸軍病院『病床日誌』の分析から明らかにしようとする研究の一環として取り組んだものである。 1.戦争神経症に関する資料の収集 日本国内にある戦争記念館、戦災資料館、平和資料館等に所蔵されている戦争神経症関運資料を閲覧・収集する作業を行った。鹿児島の知覧特攻記念館では、特攻兵士の出撃前の手記・手紙類から神経症的症状を抽出した。また、長崎の原爆資料館では、原爆投下後の市民生活に関する資料から神経症的症状を調査した。さらに秋田市土崎空襲における市民の心理的反応について関係資料を調査した。 2.国府台陸軍病院『病床日誌』のデータベース化作業 この『病床日誌』は浅井(1993)により複写版が作成されており、千葉県東金市の浅井病院に保管されている。複写版は疾患ごとに整理され、20~30症例ごとに簿冊として綴じ込まれている。この簿冊を利用して、戦争神経症とされる「臟躁病」等の症例については資料集成『戦争と障害者』第5~7巻)に病床日誌の表紙部分が再録されている。本研究では、本書を読み込みながら戦争神経症の実態について症例分析(兵歴、発症経緯等)を行った。 また残りの戦争神経症関連疾患の簿冊については、病状記載事項の分析を進めてきた。現存のところデータベースに取り込む記載事項の選定作業をおこなっている段階であるが、発病経緯については必ずしも明確でないケースも多く、統合失調症との鑑別診断も含めて慎重に読み取る必要があることがわかった。予定である。
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