惨事発生時における、心理的危機への対応は、物理的な惨事そのものに対する対応と比較して、かなり遅れており、その必要性について論じられるようになったのも、日本ではサリン事件、阪神大震災、学校現場では池田小の事件後のことである。そのため、近年学校現場においても対応のマニュアル化などが進んでいるものの、その効果などはまだ十分に精査されるに至っていない。 そこで、本研究では、中学校で実際に発生した事件の直後から行われた、危機介入のプロセスを検証し、個別の危機介入のみでなく、現場でスムーズに動けるような、意志決定経路や要員の確保、マスコミ対応などを組み込んだより総合的、組織的介入システムの構築を目的とする。本年度は、まず、1.詳細な事件と事件後の経過の記述による介入プロセスの検討と事例化として、対象となる事件と事件後の経過を研究者と研究協力者間で共有し、事例化の準備を行った。実際に現場で介入を行ったメンバー間に、共有されていない情報があることが判明し、介入に必要な情報の、即時的な情報共有システムの必要性が検討された。また、2.事件直後と事件1ヶ月後の惨事ストレス反応の推移の検討として、事件後に継続的に取得したIES-Rデータの整理を行ったところ、事件直後と事件1ヶ月後ではIES-R因子構造に違いのある可能性が示唆された。この違いが事件後の心理的経過を示すのかどうかは現時点では特定できないが、次年度の活動で、明確にしていく予定である。
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