心理療法における負の効果について3つの調査研究、(1)負の効果学習度尺度ならびに臨床心理士訓練生におけるリアリティ・ショック体験尺度(初任者用・院生用)の開発、(2)臨床心理士訓練生における負の効果の学習度とリアリティ・ショックとの関連性の検討、(3)経験3年以上の臨床心理士を対象とした心理療法のインフォームド・コンセントにおける負の効果(不快体験)への言及に関する実態調査を行った。その結果、以下の知見が得られた。 1)負の効果学習度尺度は、15項目・4下位尺度「専門家としての理解・対処」、「心理面接導入に対する反応」、「内省にともなう不快反応」、「技法適用上の注意」から構成された。 2)リアリティ・ショック体験尺度(初任者用)は、22項目・4下位尺度「職場の人間関係」、「バックアップ体制の弱さ」、「クライエントとの関係・見立てに関する困難」、「喜び・やりがいの減退」から構成された。院生用尺度は、12項目・4下位尺度「見立て・目標に対する不安」、「面接技能に関する効力感の低さ」、「喜び・やりがいの減退」、「評価・適性に関する悩み」から構成された。 3)重回帰分析の結果、「負の効果学習度尺度得点が高い訓練生ほど、リアリティ・ショック体験尺度得点は低い」という仮説は、一部支持された。すなわち、初任者群においては「技法適用上の注意」が「クライエントとの関係・見立てに関する困難」とリアリティ・ショック尺度合計得点に負の影響を、「専門家としての理解・対処」が「クライエントとの関係・見立てに関する困難」に負の影響を与えていた。院生群においては、「技法適用上の注意」が「見立て・目標に対する不安」、「面接技能に関する効力感の低さ」、リアリティ・ショック尺度合計得点に負の影響を与えていた。 4)ほとんどの臨床心理士は、負の効果に関するインフォームド・コンセントを文書ではなく、口頭で行っていた。また半数の心理士は、クライエントに対して負の効果について言及するかどうかを、その後の面接経過に応じて判断し、面接開始時に言及することはなかった。
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