感情は健康や適応に影響することが指摘されているが、感情からのこの影響は、他の多くの変数によって変容することが予想される。その重要な変数が感情制御であり、中でも感情表出の抑制が近年注目されている。また、この場合の感情そのものも、正負の感情のみならず、感情の活性・不活性次元や正負感情の相対的関係を考慮して、感情から健康・適応への現象を扱う必要がある。 そこで本研究では、健常者の将来の不健康を予測する測度として短期生活満足感を測定し、この生活満足感に影響を及ぼす要因として、活性・不活性正負感情、感情バランス、感情表出抑制を測定して効果をみた。最初の研究では、成人(大学生、大学院生)を対象とし、まず日本版の感情表出抑制尺度ならびに短期生活満足感尺度を作成し、活性・不活性正負感情と短期生活満足感の関係に介在する感情表出抑制の効果をみた。その結果、男性に限ったが、不活性負感情が短期生活満足感に及ぼす負の影響は、感情表出抑制が大きい場合により大きくなることが明らかになった。 次に、活性不活性正負感情について、感情バランス(正負感情の差と比)と正負感情の短期生活満足感に及ぼす交互作用効果を、同じく大学生を対象に検討した。その結果、いずれの感情バランス測度も短期生活満足感尺度と一次的な正の関係をもつことが明らかになり、また、活性化正負感情に交互作用が認められ、負感情が低いほど、正感情から短期生活満足感の正の影響が強くなった。 こうして、本年度の研究は、感情の活性次元、感情制御としての感情表出抑制、正負感情バランスを考慮した健康・適応研究の最初のものとして新たな知見をもたらした。
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