本研究は、ビデオ育児支援法(Video-feedback Intervention to promote Positive Parenting and Sensitive Discipline: VIPP-SD)のわが国での適応可能性を実証することを目的として行われたものである。本年度は、これまでに得られたデータをさらに精査して、親子で遊んだり、日常活動を行ったりしている場面のビデオフィードバックが、介入効果をもつための条件を明らかにした。その結果、ビデオフィードバックによる効果的な介入のためには、子どもの優れた行動に注目することが重要であり、子どものアタッチメントに関する信号行動をうまく取り上げて、それに対して敏感に反応して安全基地として母親が機能している場面について親と話し合うことが重要であることが明らかとなった。つまり、母親にうまい関わりを教えるのではなく、子どもの行動に注目しながら親の行動を合わせる関係性作りの介入こそが、本介入技法の重要な点であることが明らかになったと言える。また、母親と支援者の関係性も重要であり、支援者が母親にとっての安全基地となれるように「抱える環境」を形成することが、効果的な介入のための条件であることが分かった。そうした配慮を欠いたビデオフィードバックにおいては、母親は、自身の育児行動の否定的側面に注目しては自己評価を下げることとなり、単に、ビデオ映像を見せるだけでは、介入がうまくいかないことが分かった。 本年度では、これらの成果をもとに、日本心理臨床学会と日本発達心理学会において、よりよい親子の関係性を形成するための条件を明らかにするためのシンポジウムを行った。
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