研究概要 |
心理印象や感性評価で頻繁に利用される意味微分法(semantic differential method:以下,SD法)により抽出される評価性,活動性,力量性の基本的因子は,様々な文化圏や対象を越えて広く存在することが認められているので,固有の安定した脳内基盤をもつ可能性が極めて高い。ところが,SD法に関連した脳活動を実際に測定した研究は,脳波における事象関連電位よる研究などがあるものの,非常に少ないのが現状である。そこで,OsgoodがSD法を考案してから約50年が過ぎた現在,ニューロイメージング技法を駆使して,E(評価性),A(活動性),P(力量性)の主要な感性次元が所定の異なった脳内基盤を持つことを世界に先駆けて明らかにすることが本研究の目的である。 fMRIを用いた検討の結果、評価性因子に属する形容詞対で評定を行っているときには、下前頭回に有意な活性化が見られ、美感や快に対応する情動や報酬価の判断に関連した領野が評価性因子に関与することが確認された。活動性因子に関連する形容詞対の評定では、聴覚連合野に対応する両側の上側頭回周辺や、運動制御にかかわる左中心前回、そして空間や方位情報処理に関連するといわれる右楔前部付近に有意な活性化がみられた。力量性因子の場合には、下頭頂小葉の賦活が確認された。この付近の領域は音韻や視覚・運動情報の系列的処理や多感覚的処理に関与することが知られている。上述の結果は、線画の印象に関するSD評定中の脳活動についてのものであるが、俳句を文字刺激として提示し、それらに関する印象をSD評定中の脳活動も同様に計測した。その結果、評価性では下前頭回,中側頭回,中前頭回が,活動性では中前頭回,線条体,中前頭回が,力量性では中前頭回,線条体,下前頭回の活動が見られた。活性化した脳内部位に多少の違いはあるものの,線画と俳句という素材は異なつても、評価性、活動性、力量性にかかわる評定で、因子に特徴的な脳活動が存在することを示唆なるものである。
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