研究概要 |
本年度は、嫌悪性情動記憶の完全な消去と,同時に条件づけられた2つのCS間の消去の般化に焦点を当て,(1)記憶の再固定期間中の消去試行の効果(2)再固定期間中の消去がCS間の消去の般化に及ぼす影響について検討した.さらに情動記憶の消去にはグルタミン酸NMDA受容体が関与していることが知られているので,(3)グルタミン酸NMDA受容体作動薬であるD-cycloserine(DCS)投与がCS間の消去の般化に及ぼす影響についても併せて検討した.実験1では,音CSとフットショックの対提示による恐怖条件づけを行った翌日,に消去試行(19回の音CS提示)を行い,1回目と2回目のCS提示の間に1時間の遅延を入れた群と入れなかった群を設けて,1ヶ月後の自発的回復テストでの音CSに対する恐怖反応を比較した.実験2では,恐怖条件づけを行った翌日から3日間,文脈CSに対する消去を10分間ずつ行った.その際,まず文脈CSに1分間暴露した後1時間の遅延を入れて再度9分間暴露する群と遅延を入れなかった群,および消去をしない統制群を設けた.その翌日,音CSに対する消去の般化を比較するため,音CSに対するフリージング反応を測定した.実験3では,恐怖条件づけを翌日,文脈CSに対する消去を30分間行い,その直後にDCS(15,30mg/kg)を投与し,その翌日に般化テストを行った.その結果,記憶の再固定期間中の消去の効果については明確な結論は出せなかったが,2つのCS間の消去の般化が確認され,再固定期間中の消去がCS間の消去の般化を促進する可能性が示唆された.またDCSは用量依存的に文脈CSに対する恐怖反応の消去を促進することが実証された.
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