研究概要 |
本年度は,恐怖条件づけ直後の消去(短期消去)と遅延を置いた消去(長期消去)において,消去過程や消去の程度に違いがあるのかどうか(実験1),またそれぞれの消去に及ぼすグルタミン酸NMDA受容体作動薬D-cycloserine(DCS)の効果(実験2)を検討した. 実験1では,音CS(10kHz,65dB,10s)とフットショック(0.3mA)の対提示による恐怖条件づけを行った後,被験体を短期消去群あるいは長期消去群のいずれかに振り分けた,短期消去群では条件づけの15分後に音CS(60s)の15回の単独提示による消去を行った.長期消去群では条件づけの24時間後に同様の消去を行った.両群ともに,消去試行終了から24時間後に音CS(30s)に対するフリージング反応を測定した. 実験2では,被験体を消去時期(短期・長期)×薬物(SAL・DCS)の4群に振り分け,それぞれの消去試行直後にDCSあるいはSALを投与した.すべての群において,消消去試行終了から24時間後に音CS(30s)に対するフリージング反応を測定した, 実験1の結果から,短期消去の場合は一時的に消去が促進するが,その効果は持続せず,再び回復しやすいことが示唆された.消去された反応の回復現象として知られている自発的回復にはかなりの時間経過(一般的に1ヶ月程度)を要するため,短期消去群でみられた早期の回復のメカニズムは自発的回復とは異なる可能性が考えられた. また統計的には有意ではなかったものの,実験2では,DCSの消去後投与は,短期消去での恐怖反応を増強するのに対して,長期消去では消去を促進する傾向がみられた.条件づけ直後では恐怖記憶が固定されている途中であるため,DCSはその固定を促進するように作用し,逆に記憶が十分に固定された後の消去では,DCSは新たな連合学習(CS-no US)を促進するのかもしれない.
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