研究概要 |
作業記憶(working memory)は,ある当面の課題を適切に解決・遂行するために一時的に活用される能動的な記憶であり,大脳皮質連合野の中でも最も高次の機能に係わるとされる前頭前野がその中枢であると考えられている.前頭前野は海馬と神経線維連絡をもち,海馬から前頭前野への情報の流れが作業記憶にとって不可欠となっていることが推測される.本研究では,空間的作業記憶における海馬-前頭前野系の役割を解明することを目的とし,被験体としてラットを用い,空間的作業記憶課題遂行の各過程に係わる脳内神経伝達物質-受容体を検索してきた.21年度は,海馬と内側前頭前野が空間的な作業記憶においてどのような役割を果たすのか,主としてグルタミン酸受容体に焦点を当てて実験を行った.空間的作業記憶課題として2つの課題を用いたが,(1)遅延挿入放射状迷路課題では,背側海馬,腹側海馬,内側前頭前野にグルタミン酸N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体拮抗薬であるAP5を投与すると,課題遂行が阻害されることが明らかとなった.一方,(2)モリス水迷路における遅延場所見本合わせ課題を用いて同様の実験を行ったが,薬物の一貫した効果は認められず,この課題における行動測定の手続きをさらに改善する必要がある.以上により,空間的作業記憶の各過程(記銘,保持,検索)において,海馬各部位と前頭前野のグルタミン酸受容体が果たす役割が示唆されたが,課題の違いによる関与の差も考えられ,さらに別の課題を含めて解析する必要がある.
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