研究概要 |
1.再認において場所文脈の依存効果が生じるか否かについて,現在まで明確な結論が出ないまま放置されている。その後,場所文脈に代わって,種々の視覚文脈を用いた実験が行われ,それらのデータを基盤とする理論が提出されている。本研究チームは,昨年度までに,「不明確な場所文脈依存再認の結果を,学習材料の熟知性・有意味性および学習時間で整理できる」という内容の論文を,国際誌に投稿していた。論文審査の結果,学習材料の有意味性を返送に取り込んだ実験をするよう要請された。それを受けて,実験を行い(国内学会でも発表),改稿して再提出した。来年度中には採択される見通しである。 2.視覚文脈のデータを中心とした理論(ICE理論)には,いくつか問題が存在している。 (1)単純視覚文脈の結果は,焦点情報の背景情報としなる文脈要素ではなく,焦点情報そのものの属性(文字色,文字位置)を反映している。このことを,複数の実験を通して発見した。この結果は,単純視覚文脈が背景情報としての文脈としてではなく,焦点情報の一部として機能していることを意味している。これでは,文脈依存効果とは呼べない。この成果は,学会発表を経て,論文化する予定である。 (2)ICE理論では,文脈が意味内容を多く含むことで,項目と文脈がensembleに統合されるとしている。しかしながら,ICE理論で実証した絵画文脈は,文字提示に関しては偶発的でない絵画のみが用いられていた。そこで,文字提示に関して偶発的な写真と,偶発でない写真を用いて実験を行った。その結果,文字提示に関して偶発的でない写真では,ICE理論の実験を指示する結果となったが,偶発的でない写真ではICE理論を否定する結果となった。ここでも,ICE理論の問題点が指摘される。この成果は,学会発表を経て、論文化の準備に入っている。
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今後の研究の推進方策 |
来年度が,この研究課題の最後の年度になる。そこで,環境的文脈依存再認について,ある程度の区切りをつけたいと思っている。 (1)場所文脈については,現在投稿している論文を採択までこぎ着けること。 (2)現在隆盛である視覚文脈に基づく理論には,不備な点が多々存在している。これを指摘し,本来の文脈依存効果研究に戻したいと思っている。けれども,視覚文脈は,記憶研究の世界で第1人者のShiffrinを中心になされており,この牙城を崩すのは容易ではない。
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