本年度は、人工内耳装用児の生活の質の向上に関連する音声韻律の知覚と産出について健聴児と比較したデータの収集と分析を進め、その成果を国際会議、国際ジャーナル論文で報告、公開した。 1.パラ言語知覚の検討では、健聴児よりも低かったものの、人工内耳装用児はうれしい感情と悲しい感情を表現した発話についてはチャンスレベルよりも有意に高い正答率(第1種の誤りを調節済み、以下同様)を示し、正答率が低かった怒りの表現については悲しみよりもよろこびの感情と誤って判断するが確率が有意に高いことを明らかにした。音声韻律の表出課題として、録音された落胆、驚きの感嘆詞、そして2種類の動物の鳴き声の擬音語を聞き模倣させた結果から、健聴の5-6歳児は7-8歳よりも韻律産出の評価値が低いこと、そして人工内耳装用児全体の産出得点は健聴5-6歳児と統計的に有意な差のない水準であることを明らかにした。また人工内耳装用児については韻律知覚と韻律産出の得点の間に有意な相関関係が確認された。 2.韻律知覚の検討では、録音された肯定文の音節のピッチスウィープを操作して上昇調を質問文、下降調を肯定文とする音声刺激を作成し、ピッチスウィープ知覚について検証した結果、人工内耳装用児は、日常会話で確認されるよりもピッチスウィープの幅が狭い6半音と8半音の水準でチャンスレベルよりも高い正答率を示した。6歳、8歳、そして大学生の健聴者の正答率は人工内耳装用児よりも有意に高かった。また、人工内耳装用児の成績には大きな個人差が確認され、上位50%の人工内耳装用児の成績は、健聴の6歳児と有意な差のない水準であることも明らかになった。 3.1回目の歌の録音から3年以上経過した人工内耳装用児に対して再度歌の録音を行い、分析を開始した。
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