本研究課題の目的は、まったく経験してない出来事の記憶が想起されるという偽りの記憶と呼ばれる記憶エラーの出現メカニズムについて、社会的要因(想起の際に存在する他者の判断)を実験的に操作することによって、偽りの記憶がどのような影響を受けるのかを明らかにすることであった。 具体的には、偽りの記憶を実験的に生み出すDRMパラダイムを用い、通常の学習教示のもと、75語の単語(1リスト15語からなるリストを5リスト)を1語2秒の速度で視覚提示した。これら75語の学習の終了後(30秒間の単純加算作業後)、提示していない5語の単語に関する再認テストを3回行った。まず、全員が直後に個人で再認する直後再認テストを受けた。次に(30秒間の単純加算作業後)、本物の実験参加者が1名の他者(実験協力者で、本物の参加者には「きわめて高い記憶能力を有している」と思い込ませた)の正しい判断を聞く群と聞かない群をもうけ、ペア再認テストを行った(常に、本物の実験参加者は実験協力者の反応の後に、再認反応を求められた)。そして、最後に(30秒間の単純加算作業後)、遅延個人再認テストとして、全員が個人で再認判断を行った。 その結果、他者の正しい判断に同調する傾向(提示されていなかった単語を正しく「なかった」と答える傾向)がペア再認テストで認められ、この同調効果は遅延個人再認でも持続することが明らかとなった。これらの結果は、偽りの記憶と呼ばれる記憶エラーが他者の正しい判断にさらされると修正されることを示していると思われる。また、昨年までの誤った判断にさらされることによる記憶悪化の同調効果に対して、これらの結果は、同調にはプラス面もあって、偽りの記憶を修正できる可能性をも示唆していると言えよう。
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