大学生男女28名の実験参加者を、課題の成績に応じて金銭報酬が貰えることを約束して課題を行ったグループ(報酬群)と、そのような約束なしに課題を行ったグループ(対照群)とに分け、自発的に楽しむことのできるストップウォッチ課題と、成功/失敗のないウォッチストップ課題とを行って貰った。課題に取り組んでいる最中に、金銭報酬を貰う前と貰った後とで脳活動がどのように異なるかを、磁気共鳴画像撮影装置(MRI)を用いた脳機能イメージング法で調べた。報酬群、対照群とも、金銭報酬を実際に貰う前には、課題を行っている最中に前頭葉と大脳基底核とが連動して活動した。金銭報酬を貰った直後の3分間の自由時間に、対照群は、実験に用いた課題を自発的に頻繁に行ったのに対し、報酬群は、同じ自由時間に、この課題を自発的に行うことはほとんどなかった。この行動の違いは、成績に応じた金銭報酬を獲得するために課題をこなした報酬群では、課題の遂行自体を楽しむ内発的動機が低下した(アンダーマイニング効果)ことを示している。続いて金銭報酬がもはや得られないことを明示した条件で課題を遂行しているときには、前頭葉と大脳基底核の連動した脳活動が、報酬群では著しく低下したのに対し、対照群ではそのような脳活動の低下は見られなかった。この研究成果は、脳内の認知処理の中枢である前頭葉と価値計算の中枢である大脳基底核とが協同することによって、内発的動機が支えられていることを示唆すると同時に、行動実験でしか認められていなかった内発的動機のアンダーマイニング効果の実在性を脳科学的に強く示唆する。本研究成果は、2010年11月15日、米国科学アカデミー紀要に掲載された。
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