研究概要 |
本研究は左右半球に独立した処理資源を想定し,視覚情報の選択が左右半球で独立して行われる可能性を検討することを目的としている。 まず無関連情報の排除の効率性と左右半球の処理資源との関連性について検討した。4つのアルファベット文字を左右視野に1文字(低負荷視野)と4文字(高負荷視野)に分けて呈示し,その中からターゲット(K,N)を同定することを求めた。このとき,文字列の外側にディストラクター(K,N)が呈示され,それを無視するように求めた。注目したのは適合性効果が,ディストラクターの呈示視野(低/高負荷視野)でどのように変動するかであった。その結果,低負荷視野にディストラクターが呈示された事態で適合性効果が大きくなった。これは,知覚的負荷の低い半球にディストラクターが呈示された時には,各半球の処理資源が潤沢に余っており,それがディストラクターの処理をすすめ,ディストラクターを効率的に排除できなかったことの反映であると推察された。しかしこの結果は,ディストラクターの顕著性の点からも解釈できたため,この文字列を左右半球に冗長に投入されるような呈示布置(上下視野呈示)で,再検討した。その結果,先の左右視野呈示の結果とは大きく異なり,適合性効果の変動は見られなかった。以上の結果から,処理資源の左右半球での独立性が,無関連情報の排除を決定することが示唆された。 次に,左右半球での認知的制御の独立性について検討した。Eriksen課題を応用して,5文字からなる文字列を左右一側視野に呈示し,文字列の中心の文字の同定を要求した。ブロック内で一致試行の出現確率を操作し,一致試行の出現確率が適合性効果に与える影響を検討した。その結果,一致試行が多く出現する視野での適合性効果が,一致試行が少ない視野のそれより大きくなった。このことは,左右視野で視覚情報の選択性(認知的制御)が独立に行われている可能性を示唆した。
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