研究概要 |
視覚情報選択性の調整(認知的制御)が,左右半球で独立に行われ,さらに課題文脈によって変動することを明らかにすることが本課題の目的であった。 本年度の成果は3点であった。1つは,他者との共同行為事態でも,他者の行為の観察が観察者の視覚情報選択性に影響することであった。サイモン課題を二人で役割を分けて実施している際に,他者の競合体験を観察すると,観察者の視覚情報の選択性は次試行で強化され,適合性効果が小さくなることを明らかにした。 2つめは,昨年度の知見(蔵冨・吉崎,2010)を確認するために行われた。フランカー課題において,呈示位置に競合頻度によって視覚情報選択性は調整されることを示した。特に,左右視野に呈示した際(左右各半球)は上下視野(左右両半球に冗長に投入)よりも,競合頻度による視覚情報選択性の調整(競合適応効果)が顕著にはたらくことを示した。この結果は,視覚情報選択性の調整機構に,呈示位置に依存したものと,左右各半球が介在する機構を想定すると比較的うまく説明できた。つまり,左右視野に呈示された事態では,呈示位置の制御だけでなく左右半球での制御が重畳して働いたと推察された。 3つめは,この呈示位置に依存した競合適応効果の加齢効果を明らかにしたことであった。高齢者を対象にフランカー課題を用いて呈示位置に依存した競合適応効果を観察したところ,若齢者と同様に調整が行われた。しかしながら,呈示位置と競合頻度の関係を逆にした際には,若齢者と異なり,高齢者は競合頻度に応じた調整が認められなかった。これは保続と似た現象だとも捉えられた。このような現象は,前頭葉機能低下に伴う,認知的制御機能の加齢だとも考えられた。
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