人間でも動物でもある食べ物を一定の時間(数十分程度)食べ続ける場合、最初のうちは速いペースで食べるが、徐々に食べるペースが低下して行く。この数十分間の実験時間を実験セッションと呼び、そこでの食べるペースの低下をセッション内減少と呼ぶ。セッション内減少は実験セッションの最初から最後まで一定の様式で生じる。このことからセッション内減少を生じさせる要因、すなわち「食べ止んで行く」要因は、セッションの最初から最後まで常に一貫して作用するものでなければならないことを意味する。常識的には、「食べ止んでいく」現象には、食事を摂ることによって生じる血糖値の上昇などの栄養回復要因が関与すると考えられるが、これらの要因は食事を摂ってから作用するまでに時間がかかるため、直接の要因とは考えられない。しかし、栄養に関する要因がセッション内減少に全く関与しないとも考えがたい。そこで、本研究課題では、栄養の要因が遅延を伴わずに作用するメカニズムを、栄養に関する過去の経験の学習に基づく「条件性飽和」の観点から分析し、健康な摂食量を実現するための食行動のコントロール法の再検討を行った。 平成21年度は、ラットを対象とした実験を行い、過去の栄養の経験が、現在のセッション内減少パターンに影響する可能性が示された。しかし、セッション内減少パターンが不安定であったため十分な分析が行えず、実験条件をよりシンプルにして再吟味する必要が示された。人間を対象とした実験では、実験セッション前に栄養価のある食べ物を食べさせる経験がある場合と無い場合とを比較し、そこからセッション内減少を生じさせる要因を探った。その結果、実験セッション前に栄養のある食物を食べさせてもセッション内減少パターンに差違が生じないという結果を得た。この結果は、食行動のコントロールに、現在の栄養要因以外の観点から取り組む必要を示唆する。
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