研究概要 |
日本語母語話者と韓国語母語話者において,無声破擦音[ts](ツの子音部分)と無声摩擦音[s](スの子音部分)とを区別する音響的特徴を知覚と生成の両面において解明すること目的とし,以下の4点において研究を進めた。 1.日本語母語話者の音声生成:日本語母語話者による生成実験を実施し,破擦・摩擦の「立ち上がり部の時間」と「定常部+立ち下がり部の時間」の2変数が[ts]と[s]の区別に有効であることを明らかにした。この研究結果を日本音響学会および日本音声学会で発表した。 2.日本語母語話者の音声知覚:日本語母語話者に対し[ts]から[s]に系統的に変化させた刺激セットを聞かせ[ts]と[s]の同定実験を行った。その結果,上記1で得られた変数,すなわち「立ち上がりの時間」と「定常部+立ち下がり部の時間」の2変数が知覚にも有効であることが分かった。この結果を日本音響学会で発表した。 3.韓国語母語話者の音声生成:韓国ソウルにおいて韓国語母語話者による生成実験を実施し録音データを得た。その一部を解析し日本語母語話者のデータと比較・解析したところ,韓国語母語話者では[ts]と[s]の区別が曖昧であること,個人によっては両者の区別が明確な場合もあるが,その[ts]と[s]の境界は日本語母語話者とは異なること,さらに個人差が大きいことなどの傾向が見られた。この結果を国際会議INTERSPEECH2009で発表した。 4.韓国語母語話者の音声知覚:韓国ソウルにおいて韓国語母語話者による[ts]と[s]の同定の実験を実施しデータの一部を得た。23年度に引き続き実験を行い,解析に十分な量のデータを得る予定である。 以上から[ts]と[s]の区別には「立ち上がり部の時間」と「定常部+立ち下がり部の時間」という音響的特徴が知覚でも生成でも有効であることが明らかになり,さらにそれらが韓国語母語話者と日本語母語話者の比較にも有効であることが示唆された。
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