研究概要 |
日本語母語話者と韓国語母語話者において,無声破擦音[ts](ツの子音部分)と無声摩擦音[s](スの子音部分)とを区別する音響的特徴として,破擦音・摩擦音の「立ち上がり部の時間」と「定常部+立ち下がり部の時間」の2変数を用い,以下の3点において研究を進め成果を得た。 1.日本語母語話者の音声生成: 日本語母語話者による[ts]と[s]の生成実験データの解析,および日本語音声データベースを用いた解析を実施し,[ts]と[s]の区別には時間領域における変数が重要であることと,周波数領域における変数は両者の区別に寄与しないことを明らかにした。この研究結果をICPhS XVIIで発表した。 2.日本語母語話者の音声知覚と音声生成: 日本語母語話者による音声知覚と音声生成の実験データを解析し,[ts]と[s]の範疇境界が知覚と生成でほぼ同じであることを,知覚・生成範疇境界による生成データの誤判別率を比較することによって定量的に明らかにした。この研究結果をICPhS XVIIで発表した。 3.韓国語母語話者の音声知覚と音声生成: 韓国語母語話者による音声知覚と音声生成の実験データを解析し,[ts]と[s]の範疇境界が知覚と生成とで一致しないことを明らかにした。さらに韓国語母語話者の音声知覚範疇境界は日本語母語話者のそれと似ていること,および韓国語母語話者の音声生成範疇境界は日本語母語話者の音声知覚・生成範疇境界とは異なっていることを明らかにした。この研究結果を日本音声学会で発表した。 以上の研究結果から,[ts]と[s]は時間領域の変数を用いて区別可能であること,および韓国語母語話者の[ts]と[s]の聞き取り能力は日本語母語話者とほぼ同じであるけれども,[ts]と[s]を区別して発声する能力は日本語母語話者とは異なっていることが明らかになった。
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