本研究の目的は、往来物(前近代日本の読み書き教材)の変容過程について分析を加え、書簡文という独特の教材形式が、日本において長期に継続したことの意味、およびその変容過程について考察することにある。 研究の結果、日本語における書記システムと文書作成において、書簡体が安定的な文体となったため、読み書き様式を口頭語に接近させることよりも、書簡体の文体をより容易に習得できる教材(往来物)の開発によって、読み書き能力の育成をはかることが選択されたものであることを仮説的に示した。同時に、往来物の終止期となる明治期において、書式往来物ともいうべき一群の往来物が多数編纂されていた事実を明らかにした。
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