1. 明治期のグラスゴウ大学日本人留学生は、同大学文書(登録証、学級名簿、大学要覧など)に確かな修学記録が認められる者だけでも、50名を数える。かれらの留学記録(留学年・氏名・出身校・宿所)、学修の内容と成績(履修科目の名称・内容・成績評価を分析した。全体的な把握を企図して「留学生一覧」を作成するとともに、顕著な傾向と特色として下記の諸点を析出した。 (1) グラスゴウ大学では、明治日本が求めていた工学、造船学その他の自然諸科学を修めることができただけでなく、教室での理論学習を実験室での実習ならびに現場での実地研修に結びつけて学習を深めるという、特色ある学習環境が用意されていた。 (2) とくに学外での実地研修が奨励されていて、意欲ある者であれば造船所、鉄工所、鉄道会社などで実習を体験することができた。 (3) しかも、グラスゴウ大学に在籍のまま、同市内にあるストラスクライド大学の夜間課程に修学することができた。同大学は、夜間課程の開設だけでなく、実学人材の養成をめざした実践的な教育課程を用意していた』とくに専門技術の習得に直結するような実務的な科目の開設、ならびに現場の実務に関連づけた学習内容の提供という点で特色ある学習機会が用意されていた。 2. グラスゴウ大学日本人留学生の全体像を解明するとともに、留学生の個別研究に着手した。第一列として、1880年度留学の南清(1885-1904)の事例を考察し、(1)自然哲学、土木工学・機械学、実習・実地調査の履修、(2)優秀な学業成績とウォーカー賞の受賞、学位授与式における称賛、(3)鉄工所および鉄道会社における実習体験などを、具体的に明らかにした。 3. 次年度は関係史料収集の幅を広げるとともに、留学生の個別研究を進めて、全体的な留学生像の精緻化を図る予定である。※加藤詔士は加藤鉦治の筆名。
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