本研究の目的は、デューイ教育哲学の展開についての一般的な理解(中期の実験主義、後期の自然主義は、初期観念論期の棄却と脱却による)について、デューイの各種講義ノート、講義録や同時代の研究者との書簡などの第一次資料の分析から再検討し、ヘーゲル哲学からの影響をデューイの生涯を通じて追跡・確認し、加えてデューイ哲学の思想的展開を「ヘーゲル的残滓」と「ダーウィン的奈進化論的生物学」との融合・宥和の帰結として捉え直していくことにあった。23年度(最終年度)の実施計画としては、第一に、これまでに収集した資料を整理・分析し、第二に、資料分析をもとに米国におけるヘーゲル哲学・主義の受容とデューイ自身の解釈との比較検討しながら、デューイ思想の形成におけるヘーゲル的な要素を確認することであった。 前者については、サザンイリノイ大学デューイセンター所蔵の1897年のシカゴ大学における講義ノート「ヘーゲル哲学セミナー」、シカゴ大学所蔵1890年代のAnnual Register、Donald F. Kochにより編纂された1900-1901年のシカゴ大学における倫理学講義、また1904-1905年のコロンビア大学のコース・ディスクリプションなどが第一次資料となった。特に1897年の「ヘーゲル哲学セミナー」はその構成から、ヘーゲルの哲学三部作のうちの「精神哲学」の内容にほぼ沿った概説と展開になっていることが確認された。後者(資料分析と考察)については、初期デューイ哲学の中における「超越論的なヘーゲル主義」と「ヘーゲル哲学」とを峻別し、従来指摘された「ヘーゲルからの離脱」とは前者の類の観念論であり、後者については中期の実験主義や後期の宥和と統一を希求する自然主義に展開されている可能性を明らかにした。この点は、ミシガン大学とシカゴ大学でのセミナーと講義におけるデューイによるヘーゲルテクストの読解を分析することで、一層明確になると期待される。順次、研究成果として発表する予定である。
|