21年度に実施した研究の具体的内容 本研究は「感性教育」と「身体教育」の関わりを19世紀から20世紀にかけての世紀転換期に展開された新教育運動のなかで追及することを目的としている。平成21年8月に日本の新教育運動家によって設立された学校の資料館および国立公文書館(いずれも東京)で資料収集を行い、世紀転換期における教育実践にみられる「感性教育」と「身体教育」の関わりを探り、その成果を9月にドイツ教育学会教育史研究分科会(ドイツ・マールバッハで開催)のなかで「1890年から1945年にかけての日本におけるナショナル・アイデンティティ推進の儀式」というテーマで発表した。この渡欧の際にドイツの新教育運動家によって設立した学校の資料館で収集した資料および購入した書籍を手掛かりとして、紀要『人間形成と文化』掲載論文である「田園教育舎と心身問題-オーデンヴァルト学校からエコール・デュマニテへの推移に注目して-」を、さらに11月のベルリン滞在中に収集した資料を中心として紀要『三重大学教育学部研究紀要』掲載論文である「ペーターゼン教育学における心身問題の射程-イエナ・プランにみる心と身体の接点から-」を、さらに『杉峰英憲先生退官記念論文集』掲載論文である「新教育運動における心身論の来歴-時代精神の地平から-」をそれぞれ執筆した。また、11月のベルリン滞在中には、ディートリッヒ・ベンナー教授のもとで推進されている二つのドイツ学術振興会プロジェクトの集まりに参加する機会を得、意見交換をすることができた。 21年度に実施した研究の意義、重要性 ここまでの研究で明らかになってきたことは、「感性教育」と「身体教育」の関わりを重視した新教育運動家たちは、従来から指摘されている生活改革運動の実践や生の哲学の理論からばかりではなく、当時異色を放っていた精神医学の分野からも影響を受けているということである。今後はこの分野からの影響の事実関係を精査することで、新教育運動のこれまでは注目されてこなかった側面、さらには19世紀から20世紀にかけての世紀転換期における教育実践における「感性教育」と「身体教育」の関わりの根幹を解きほぐしていくことができるのではないかと推測される。
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