本研究の目的は、ドイツ・ワイマール期の改革芸術学校バウハウスにおける創造性教育成功の諸種の要因を解明するにある。その中心的なものは、初代校長W・グロピウスと予備課程を担当した形態教師J・イッテンの教育観・教育方法である。21年度は、この両者が世紀転換期の改革教育学運動、とりわけ労作学校運動(イッテンの場合その師範学校時代の師・教育学者E・シュナイダー)から深甚な影響を受けたことを、彼ら独自の教育上及び芸術上の見解に関連付けつつ、実証した。ついで22年度は、イッテンから招聘され、しかもグロピウスに「個々人の物的特質と心的特質を平衡にもたらす」べき「調和化教育」という基礎教育の構想を生じさせたバウハウス唯一の女性形態教師G・グルノウの理論と実践のミューズ教育的な特質と、バウハウスにおけるその位置と役割とを明らかにした。 「そこで本年度は、以上の成果を再確認しつつ、陶器工房をバウハウスにおける創造性教育成功の代表的事例として取り上げ、グロピウスの旧友でありイッテンと教育学的親交のあったその形態親方G・マルクスの教育・訓練の方法的原則や具体的方法を明らかにした。彼は工房という親方・職人・弟子からなる小規模な労作共同体の中で、工作親方M・クレーハンによる技術的訓練を踏まえたうえで、自然な諸前提からの文化の新創造」(シュナイダー)や「芸術的造形」の「<根元的な>再出発」(Ch・グローン)を目指して、「陶磁容器の彫刻的可能性」によるモダニズム的な「実験的作業」を生徒・弟子たちと共同的、開発的に実践し、その後の彼らの「陶芸の創造的仕事のための基盤」(K・ヴェーバー)を形成したのである。しかもこの一連の過程の中に、産業界との接触による実際の「経済の厳しい不可避的要求」(グロピウス)への深い認識とその対応がたくみに埋め込まれたのであった。 本研究全体の学術的な特色、独創的な点は、バウハウスに教育学が如何なる貢献をしたのか、その解明である。本年度は、かかる<教育学から専門科学・芸術へ>の流れの基本部分とともに、それとは逆の流れ、すなわち彫刻家マルクスによる創造的芸術教育での<専門科学・芸術から教育学へ>の基本部分を描き出すことができた。
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