「教育的パフォーマンスにおける伝授の両義性の研究」というテーマの下で研究を進めているが、本年度はこのテーマの理論的核心部にアプローチを試みた。その成果の主要部分は、論文「行為の両義性としてのパフォーマンス-教育的コミュニケーションへの示唆」としてまとめられている。内容の概要は以下の通りである。行為としてのパフォーマンスは遂行と演技から成り立っているが、両者は非対称であり、遂行は遂行それ自体であるが、演技は遂行の演技としてのみ可能である。その意味でパフォーマンスは両義的であるが、それはまた行為者の意図性に着目するならば、メッセージとメタ・メッセージという軸とも大いなる関連をもつ。すなわち、メッセージは一般に発信者(行為者)の意図によるが、メタ・メッセージは発信者が意図的に発したものとはかぎらず、いわば無意識的・身体的なものでもありうる。メタ・メッセージの解釈は一義的ではないが、報告者はそれを、メッセージの解読の仕方の指示というだけでなく、むしろメッセージの上位レベルにおいてメッセージとしての一定の内容を含んだものと解する。このメタ・メッセージの持つ意味はとりわけ教育的行為においてきわめて重要である。情報化が進んだ現代にあって、教育行為において教育者は、みずからが発するメッセージとともに、みずからの直接的意図にはないメタ・メッセージをも考慮すべく要請されていると言える。今や教育者からのメタ・メッセージは、被教育者にいわば危うい形で伝えられているが、その「教育的に望ましい解読」は実質上コンテクストだけが頼みである。現代の教育には、そのようなコンテクストへの配慮、さらにはコンテクストの形成までもが求められつつある。
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