研究概要 |
平成21年度は、当初の予定通り、英国において"Common","Commons"に関する文献調査を行った。オックスフォード大学が主な訪問先であり、この他、ロンドン大学アジア・アフリカ学院、ケンブリッジ大学、大英図書館、国立公文書館、ヘーゼルメア教育図書館、王立農学校図書館などにおいて、"Common","Commons","Common Room"、ならびに、幕末維新期に渡英した知識人に関する文献調査を実施した。また、9月に英国ノリッジ市で開催された日本資料専門家欧州協会(EAJRS)の年次大会に初めて参加し、欧州の日本関係史料に関する情報交換する機会を得た。 研究成果とその意義は以下の3点にまとめられる。(1)英国における"Common"は下層階級の総称から発していた。"Common"が「階級を越えた平等」(of no rank ; without birth or descent)や「公の・公共の・公衆の」(public,general)として使われたのは16世紀頃であると考えられることから、今後は歴史社会学的なアプローチも必要となる。"Common"がジェントリーを包含する意を有するようになるプロセスを把握することは、西周の学問観、教育観を明らかにする上でも重要である。(2)"Common"という言葉は、現在の英国社会においてもあまりいい意味では使用されていない。例えば、食事中肘をつく行為は"Common"のようだと眉を顰める人もいる。また、「共有」財産としての"Common Place"はしばしば論争の対象になる。"Common"の理解には、欧州階級社会の歴史認識とさらなる事例収集が必要である。(3)幕末明治期の留学生にとってオックスフォード大学、ケンブリッジ大学は教養教育の場であった。理工系は主にスコットランドやロンドン大学への入学者が多く、留学目的により使い分けていたと考えられる。この研究成果をもとに、今後はカリキュラムを収集し、西周ら知識人が求めた教養を探る一方途としたい。
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