平成22年度における当該研究は、東日本大震災の影響による困難はあったが、夏期・春期の2度にわたる海外史料調査ならびに国際学会での大会発表・情報交換を実施した。第1回目の海外調査は英国オックスフォード大学で実施し、サイエンスの文献を横断的に検索・収集した。主な収集史料は、当初予定したコモンについてであり、(1)スコットランド地方とイングランド地方では概念が異なること、(2)旧約聖書の聖職者文献では、コモンは聖なるものと対峙していること、(3)オックスフォード大学のコモン・ルーム創設の背景と同様に、階級的、差別的な意味が多分に含まれている、など重要な視点を示している。また、第1回目の海外調査に引き続き、イタリア・ジェノアで開催された日本資料専門家欧州協会(EAJRS)2010年度大会において、英国内の史料調査方法と成果について、"Archival Research on Agricultural Chemistry at the End of 19^<th> century England and Japan : Based on Findings at the Royal Agricultural College"と題して発表を行った。大会発表を機に、多くの欧米大学図書館及び博物館の専門家との情報交換ができた。西周研究に必要なオランダ・ライデン大学図書館やドイツ・ベルリン国立国会図書館の日本研究担当者と会えたことは、今後の研究促進の上でも大きな収穫であった。第2回目の海外調査は、東日本大震災後の3月28日から3月31日に実施した。平成22年度に予定していた英国以外、すなわち、オランダ、ドイツといった西周の学問体系の構築に影響を及ぼしたと思われる国家に注目し、時間的な制約を考慮して、「学則」に焦点を絞り、史料収集を行った。ドイツでは、アルゲマインの意味を把握しながら、プロイセン当時の学則を収集した。なお、ドイツに先立ち、個人研究費によりオランダで史料調査を行い、西周のオランダ留学当時の学則を収集した。これら学則の収集は、西周のコモン・サイエンスのオリジナリティを比較検討する史料として有効であると考える。
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