■今年度は、本研究の構想をまとめるとともに資料収集を中心に行った。構想に関しては「<文章>はどのように評価されてきたのか-明治中期における入試作文の導入と普及」(第9回・九大日本語文学会九州大学・2009年10月11日)と題する学会発表を行い、有識者からの様々なご意見を集約することができた。また、旧帝国大学図書館を中心に収集した資料についてはは「戦前期・高等教育の入学試験における「作文」課題一覧」(「九大日文」第14号)にまとめて活字化した。 ■リテラシー能力の規範性と文学テキストの読解を関連づける研究としては、「太宰治の読まれ方-読書感想文の世界に生き延びる「人間失格」」(『新世紀 太宰治』双文社出版、2009年6月)、「教育言説のなかの有島武郎」(「有島武郎研究」第12号)という二本の論文を発表した。このテーマについては今後も引き続き検証していくことになる。 ■なお、昨年度の成果をまとめるかたちで、2011年6月に『<文章>はどのように評価されてきたのか』(ちくま新書)を書き下ろしで刊行することが決まっており、現在、ゲラの校正作業中である。I・明治期の文章論における規範意識、II・書くことの<真実>、III・文章の国家統制と<生活主義>の台頭、IV・戦後の適性検査から高度経済成長期の小論文へ、V・AO入試と小論文の現在、VI・採点者の視点、という章を立て、明治期から現在まで、文章がどのような観点から評価されてきたのかを歴史的文脈のなかでとらえたつもりである。同書をまとめたことによって、今後の研究の方向性が明確になるとともに、研究課題の新たな広がりも見えつつある。
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