研究課題/領域番号 |
21530809
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
石川 巧 立教大学, 文学部, 教授 (60253176)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | リテラシー / 占領期 / メディア / 読解力 / 教材 / 文学 / 問題編成 / 表現 |
研究概要 |
リテラシー能力という観点から日本の近代を遡行したとき、大きな変節点として見えてくるのは、戦中から占領期にかけてのGHQによる教育改革の影響である。そこで、本年は占領期のメディア、特に雑誌の研究を通して人々のリテラシーがどのように鍛えられ たのかを研究した。その成果は『「月刊読売」解題と総目次』(三人社)として2013年度中に刊行される予定である。また、上記の観点から問題を掘り下げていくなかで、大学における文学教材を作成し、その指導を通して新しいリテラシー能力の育成を図っていきたいと考えるようになり、川口隆行氏(広島大学)との共著として『戦争を〈読む〉』(ひつじ書房)を刊行した。私たちは、戦争について何かが分かったつもりになって〈大きな物語〉のなかに安住してしまいがちである。だが、リテラシーという観点からすれば、戦争を多様な局面から捉え直し、私たちが戦争に対して漠然と抱くイメージを細分化していくとともに、それぞれの作品についての〈問題編成〉を試みる必要が生じる。その作品がいまこの時代を生きている私たちにどのような問題を投げかけているかという観点から考察を加えることが重要になる。この教材は、本研究を通して私が考えた方法の実践編である。その他の業績としては、ベネッセと朝日新聞社が共同で実施している「語彙・読解力検定」の問題作成委員としてし「情報を正しくスピーディーにつかみとり、自分自身の考察を加えながら、わかりやすく表現豊かに発信する」能力を鍛えるための学習方法についての検討を行った。その成果として、『語彙・読解力検定公式テキスト1級』(朝日新聞出版)を共著で刊行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、本研究ではマークシート方式が導入されて以降の小論文入試に焦点をあて、その科目が辿ってきた歴史的過程を踏まえながら分析を行うことを目的としていた。小論文試験の内容、受験対策のあり方、授業との関係などを歴史的に検証することは、日本の高等教育においてリテラシー能力というものがどのように位置づけられ、どのような方法を用いてその能力向上が図られてきたかを総合的に考察することでもあると考えたからである。だが『「いい文章」ってなんだ―入試作文・小論文の歴史』(ちくま新書)を刊行したことで、その目的はほぼ達成できた。そこで、現在では戦後占領期以降の教育における「読む」という行為の在り方そのものを再検証し、大学におけるリテラシー能力を向上させるための教育プログラム、授業カリキュラムに関する研究をはじめている。また、教育という領域にとどまらず、幅広い意味でのリテラシーという問題に注目し、戦後の大衆雑誌文化における「読者」の存在やその志向性を研究しはじめている。当初の研究計画を達成したうえで、さらに新たな課題に進みつつあるというのが現状認識である。なお、2012年度に関しては科研費のテーマに関する共編著を一冊、教材を一冊刊行することができ、研究業績としても一定の成果をあげられたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
この間、日本各地の大学図書館、教育関連の資料保存機関を回り、日本近代におけるリテラシー概念の変遷に関する資料を収集してきたが、その膨大な資料に関してはまだまだ活用しきれておらず、今後の整理・分析、そして研究論文への反映が必要になる。2013年度は本研究の最終年度にあたるため、まずはこれまで収集した資料の活用方法について検討することが第一の課題になる。本研究の主たる目的のひとつであった「小論文科目の在り方に関する新たな提言」という点では、まだまだ考察すべき課題が数多く残っていると思われる。この問題に関しては教科書や教材を作成している第一学習社の小論文教材などを活用させてもらいながら、これからの日本社会において求められるであろうリテラシー能力とそれを鍛えるための教材という観点から考察を深めていきたい。今年度、刊行した『戦争を〈読む〉』という大学授業用テキストについては、授業での利用を開始し、学生の反応やテキストの使いやすさなどを検証する予定だったが、2013年度はサバティカル(研究休暇)になってしまったため、このテキストを用いた授業展開は2014年度以降に持ち越された。代替措置として、まずは、他大学での利用状況などを把握して文学を通してリテラシー能力を鍛えるための方法を考えていきたい。
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