研究概要 |
平成23年度は、ドイツにおける大学教育学分野を担う職能団体の世代交代・組織再編(AHD⇒DGHD)に伴い、動向調査と関係者の面談調査をした。大学教育改革に関しては制度的政策的動向の調査に偏りがちな先行研究に対して、歴史的アプローチ(フンボルトを発祥とするコンピテンス概念、大学理念の伝統への着眼)を通して、改革の担い手たちによる相互支援的な体制づくりを捉えることができ、以下のような知見をえた。 1.大学教員文化の転換の進展:フンボルト理念の終焉論がある中で大学教育学関係者が注目してきたのは、彼を発祥とするコンピテンス概念、構成主義教育観(教育・学習のプロセスを重視)である。大学紛争期には若手研究者が中心となって効果的な大学教授法(「研究による学習」、PBL、チューター制度)やキー・コンピテンスに基づくカリキュラム改革が提唱され導入が試みられた。このような改革構想は現在の後継者の間で継承され、ハンドブックなどに明示されているように、教授職への過程(Promotion, Juniorprofessur)で構成主義的教授法の研修プログラムに参加して修了証を得ることは当然視されてきている。(『Erfolgreich Promovieren』やThesis調査など) 2.大学院教育プログラムの特徴:ボローニャ・プロセスを背景とした大学院教育改革において、英米がモデルとなったものの、国際的競争力を高める為の独自の魅力づくりで、「教育と研究の自由」に基づく徒弟教育(「研究による学習」)の伝統を重視した「Graduiertenkolleg」、「エクセレンス・イニシアティブ」の部分として大学と研究機関統合の「Graduiertenschule」等の形で整備されている。各大学では独自のプログラムが開発され、例えばコンピテンスに基づく体系的な「大学教授法」プログラムを開発するパイロット事業(TU Kaiserslautern)等がある。 3.若手研究者ネットワーク:後継者を育成するために財政支援策が整備され,Juniorprofessur制度の充実した事例(フンボルト大学など)も出現しているとはいえ、現状の問題に対応するために相互支援体制づくりが奨励され、若手の声を反映させるための団体活動も活発化している。Thesisis e.V.、Forderverein Juniorprofessur e.V.等。 4.大学教授法研修プログラム開発の特徴:研修を担う専門家のためのプログラムの開発が進んでいる。また、Juniorprofessurの職能開発プログラムのモデル事例(外部資金獲得法、協働形態、職務上の諸問題)が提供されている。
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