本研究は、学区論と経済理論とを総合的に把握することを目的としたものであり、一般行政団体によって実施されてきた学事、とくに学校施設を中心とする教育関連施設の設置運営の動向と、それら施設と関係する地域的有志的組織の歴史的生成と価値意識の構成を検討した。具体的には、「地域学校の資本形成の歴史検証」と「教育の意思決定と資源体系」の検討を行うことで、制度の内部構成、制度の複合的編成、施設運営費用の社会的承認の作法の三つの相互関係から、制度運用に際しての公平性の確保とリスク軽減の方途を探ることを目指した。 第一に、研究目標の一つである「地域学校の資本形成の歴史検証」は、研究分担者である湯田が行った。その結果、対象である神戸市では、商業系教育機関への進学者の増大も進行した。そして、その進学者が、高等商業教育機関に連なる商業系教育機関を安定的に支持する基盤となり、戦後の商業系の中等教育機関や高等教育機関の拡大に連なることを指摘した。このことは、ミクロな社会過程による教育機関の発展が、商業系教育でも営まれていたことを示したものである。 第二に、もう一つの研究目標である「教育の意思決定と資源体系」では、研究代表者である三上と末冨が行った。末冨は、教育資源の中でも政府の負担する公教育費と家計の負担する私教育費との流れに焦点をあてた分析を担当した。具体的には、戦後の公私負担の変動過程から、「公私混合型教育費負担構造」の特徴と課題を把握したうえで、今後の教育費の公私関係を「公私分担型教育費負担構造」へと移行させる必要性とそのための教育財政に求められる機能や条件について検討を行った。 研究代表者の三上は、近年刊行された関連学術書を整理し、先行研究の検討と総括的な課題設定を試みた。そして、物理圏・生命圏・人間圏の合成としての空間-世界像を前提に、両次元の複合・模式的構成と相互交流を行うことで、社会と学習者世界の内的構成が進行することを指摘した。さらに、内的構成が進行するに際して、社会活動の局面での価値争奪性も発生するが、人格内部の統御が社会生活圏にも連なることで、公平性を確保し、リスクを制御して発展の契機になる可能性を示した。
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