本研究は、地方分権化とEUによる欧州統一化(Europeanization)が同時に進む欧州地域に着目し、すべての地域住民に、人生のあらゆる段階で、学校教育、家庭、地域、職場など生活のなかに広がる多様な学びの機会を保障する「学習社会」と、それにもとづき経済活動につながる知識を創造する「学習経済」を地域社会で実現することによって、多様な学びが学習者個人および地域の社会・経済にもたらす様々な効果を質的に明らかにすることを主な目的とする。その際、19世紀以来の民衆教育の伝統と、20世紀後半に構築した社会人のリカレント教育制度を含む公的生涯学習の支援制度を基盤に、地域産業のイノベーションに成功しているスウェーデンの地方自治体を事例として取り上げる。 21年度は、まず1990年代後半からのスウェーデンの生涯学習関連の政策文書、研究論文等を収集・分析し、生涯学習政策の全体像を把握しようとした。その際、EUの助成を受けた生涯学習政策の国際比較研究の動向と、EU域内の他の国々への影響関係にも着目した。次に、EU、北欧閣僚理事会等の生涯学習に関するデータベースから、スウェーデン各地の特色ある生涯学習実践を調査し、地域における生涯学習体系の事例調査の候補地を選定し、調査計画を立てた。そして、2009年3月14日~24日には、ストックホルム市ならびにヨンショーピン県において、生涯学習施設や団体を訪問し、地域における生涯学習の実践とその推進体制に関する調査と資料収集を行った。またヨンショーピン大学全国生涯学習センター(ENCELL)においてモハメッド・チャイブ教授およびヘレーン・アウル教授ならびにストックホルムのスウェーデン労働生活・研究協会(FAS)プログラム・マネージャーのケンネット・アブラハムソン博士から本研究に関する意見を聴取した。
|