本研究は、地方分権化とEUによる欧州統一化(Europeanization)が同時に進む欧州地域に着目し、すべての地域住民に、人生のあらゆる段階で、学校教育、家庭、地域、職場など生活のなかに広がる多様な学びの機会を保障する「学習社会(learning society)」と、それにもとづき経済活動につながる知識を創造する「学習経済(learning economy)」を地域社会で実現することによって、多様な学びが学習者個人および地域の社会・経済にもたらす様々な効果を質的に明らかにすることを主な目的とする。その際、19世紀以来の民衆教育の伝統と、20世紀後半に構築した社会人のリカレント教育制度を含む公的生涯学習の支援制度を基盤に、地域産業のイノベーションに成功しているスウェーデンの諸都市を事例として取り上げ、地域における生涯学習体系と生涯学習支援の構造についてもその詳細を明らかにすることを目標としている。2010年はEUが2000年に定めたリスボン・ゴールの最終年であるため、生涯学習の分野でも各国の目標達成度が測定され、政策・事業評価が行われたことから、このことに関する資料からスウェーデンの生涯学習の到達点の分析を行った。その結果、EU国内で全国民に対する生涯学習の普及率が最も高いことが明らかになった。また2011年2月6~14日には、ヨーテボリ、バーベイ、オーレブローならびにノーショーピンにおいて90年代後半から開設が進められた新しいタイプの生涯学習施設「学習センター」の事例調査を行い、関係者へのインタビュー調査から各地域における生涯学習推進の構造とその効果や課題を分析するとともに、ストックホルムにおいてスウェーデン学校教育庁教育ディレクターのDr.Ann-Kristin Bostromと面談し、本研究に関する意見交換を行った。
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