本研究は、日本とドイツにおける学校教育の質保証と教育格差という課題にどのように対応しうるのかというモデルを構築し、一部地域における実験的検証事例を示すことを目的とする。「公」依存型の日本並びにドイツは、こうした政策動向から遅れていたと考え、結果として、米英をモデルとする、あるいは安直に追随するような、政策動向を生んできた。これまでNPM型行政手法は米英を中心として分析されてきたが、「私」的活動を中心とする米英モデルではない形のモデルを検証することは、今後の日本の行政手法としても意味があるものと考えられる。今回の研究は米英のNPM型モデルに替わる理論モデルを構想し、日本における実現可能性を示唆することが目的であった。 スイスで開催された国際会議への参加(2011年9月)、現地調査並びに文献研究等により以下の点が明らかとなった。学校教育の質保証を行う手法として、米英では学校外部評価という事後評価モデルで実施されてきた。しかし近年は学校外部評価で学校教育の質向上を行うことは、米英でも困難となりつつある。イギリスの学校水準局が改組され業務が縮小されたり、オランダでも学校外部評価が簡素化された。ドイツでも学校外部評価を縮小しないしは廃止し、各学校の質保証並びに教員の質向上へと政策が転換しつつある。その際、教育行政、民間企業、及び学校が、それぞれにある程度の柔軟性をもって学校教育の質保証並びに教員の質向上に向けた協調型のモデル構築へと進んできたことが解明できた。ただし、各利害関係者が柔軟性をもって取り組んでいるため、明示的な一元化は困難となっている。日本への示唆となるモデル構築までは至らず、政策の方向性を示唆することができたという段階である。今後は有効な事例を積み上げる作業へと進むことが必要となる。
|