本年度の成果は、以下の三点にまとめられる。第一に、ウィスコンシン大学同窓会研究財団(Wisconsin Alumni Research Foundation : WARF)の設立過程の解明のために、日米科学交流の観点から、WARF初代所長ラッセルによる日本訪問(1925年)の意義を検討した。昨年度の現地調査で収集した史料の分析により、ラッセルが日本の理化学研究所の特許管理と産学連携の手法に学び、国際競争下における米国科学技術の発展を目してWARF設立に尽力したことが明らかとなった。また、ラッセルは、第1回ロックフェラー奨学生選考を任され、アジア各国の高等教育制度を比較するなかで、とくに日本を高く評価したこと、さらに留学機会を持たない数多くの若手研究者を推挙した点で、日本の科学技術研究の発展に与えた影響は大きいことが明らかとなった。第二の成果は、ウィスコンシン大学アーカイブズの発展経緯と今日的課題を明らかにした点である。史料調査の基本となる史料保存の実態やポリシーを解明することで、今後の史料調査の手掛かりが得られた。具体的には、WARF関係者のオーラルヒストリー・プロジェクトの活用が期待できる。第三の成果として、新たな産学官連携組織であるWisconsin Institutes for Discovery (WID)の専用施設の竣工式に参加して見学するとともに、プログラム部長ヘイスラー氏に2009年以降の進捗状況と今後の展開に関するインタビューを実施した。その結果、ウィスコンシン州の経済的発展のために、州政府と大学と産業界が一体となって多様なプログラムを策定していることが明らかとなった。WIDの教育事業に関しては、今後も追跡調査が必要である。
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