イギリスにおいて1997年に政権に返り咲いた労働党は、教育に関しては、第1期においては保守党の市場原理的改革路線を引き継いだ。ところが第2期目になると競争よりもむしろ協働の方に軸足を移していったと言われる。労働党政権における教育政策には「協働の理念があったのであるが、学校間の生徒獲得競争という準市場は厳然と存在していた。 2010年5月に保守・自由民主党連合政権が誕生したが、イギリスの(初等・中等)教育制度は、市場原理的要素と協働的要素が「混在」しているのではないかと考えられる。本研究は、このような課題意識の下に、イギリス(イングランド)を対象として、学校選択制度下において「競争」原理と「協働」原理が、如何なる構造の下に、どう作用しているのか、そして、そこに学校間の教員同士の協働を発揮させる可能性があるのかを検証しようとするものである。 本年度は、中等学校長を対象とした質問紙調査(回収率率:33.5%=382/1141)を分析した。得られた主な知見は以下の通りである。「競争」と「協働」の両方を支持する校長と、「競争」は否定するが「協働」を支持する校長がほぼ半数ずつ存在する。教育水準の向上との関係では、水準の指標のとりかたにもよるが、GCSEの5教科の付加価値スコアを水準の伸びの指標とした場合、①教育における市場原理の「仮説」である「競争が教育水準を向上させる」は支持しうる証拠は得られなかった。②教育水準の向上を目的とした学校間の「協働」は教育水準の向上にとって効果がある。③「競争」と「協働」の両方を支持する校長の学校の方が、「競争」は否定するが「協働」を支持する校長の学校に比べて、教育水準が向上していた。そこでは「競争」の存在が学校の校長・教員の意識や行動に、教育水準の向上へと結びつく何らかの影響を与えているのではないかと仮説的に捉えることができる。
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