1970年代以降に日本とフランスで展開した中等後・高等教育の職業専門化(仏語:professionnalisation)について、本年度は両国の人文系大学学部ごとに年次変化の時系列データベースを作成し、変容過程の比較を試みた。人文系学部は、文学、言語、人文科学(心理・社会・国際・教養等)、芸術、教育の諸分野を範囲とした。行政資料・統計のほか、高等教育機関の編年史等の文献資料を入手し、各機関のホームページ等も参照しながら、学部の新設・改編等の沿革に関わる情報を入力し、職業専門化された学部の拡大進展状況を分析するための基盤データを構築した。 分析の視点は、フランスの社会学者ピエール・ブルデューが展開した高等教育を通じての文化資本伝達に着目し、それが職業専門化に伴ってどれだけ多様化し、伝達される人文系教育の内容が変化したかを比較することにある。現在の分析段階では、日仏両国とも職業専門化を導入した人文系の学部やコースが増加し、時代に適応した教育内容の変化が認められるが、日本では当初から実用性・学際性を銘打った学部名称が多い中、近年は拡散状況が認められるのに対し、フランスでは基幹となるディシプリンを共有した上で、普通教育と職業教育が分岐していくことによって職業専門化を拡大させていることが明らかになっている。教員・学生数やカリキュラム等の補完情報を加えたり、短期高等教育機関や大学院修士課程とのつながりを考慮したりすることで、分析の進展を図りつつある。 本年度の成果物としては、教育系大学の文化資本形成に関する論文を『上越教育大学研究紀要』に執筆したほか、近年のフランスでサルコジ政権下の新自由主義政策により、学力向上策(進学促進策)と職業専門化が連動する形で強力に推進されてきたことを、学会で発表して論文に執筆し『日仏教育学会年報』に投稿した。
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