本年度は、日仏の人文系大学学部別に作成した職業専門化(仏語:professionnalisation)に関する時系列データベースに基づき、1970年代以降の変容過程に関する分析を進めると同時に、フランスの大学教育現場における文化資本伝達の変容と問題点に関する現地聞き取り調査を実施した。 まず前年度に引き続き、行政資料・統計のほか、高等教育機関の編年史等の文献資料を補完し、特に学士課程名称の変化に着目しながら、日仏両国で文科系の比重が低下し職業専門化が進展してきた過程について分析した。その結果を『上越教育大学研究紀要』に論文として執筆した。 次にP.ブルデューの文化資本概念が、上記の職業専門化に伴ってどのように議論されてきたかについて、彼自身の1960年代からのテキストに遡って検討し、2010年11月に日仏社会学会で研究発表を行った。その結果、フランスの正統的ブルジョワ階級文化を所与の前提に置かなくても、象徴権力の転換をもたらす文化変動の観点から、日仏両国の教育と社会を比較する可能性に開かれていることを明らかにした。 そして11月にフランスで現地調査を実施し、パリ近辺の大学を中心に、主に次の2点について聞き取り調査および文献資料収集を行い、現在の分析課題としている。(1)サルコジ政権下での高等教育改革が進められる中、原則無選抜で人文主義的伝統をもつ大学が停滞し、職業専門化に特化した短期高等教育機関が発展するという、日本とは逆の傾向がみられること。(2)大学の中でも、パリ・ソルボンヌ大学のように職業専門化を伴う再編を率先して引き受けている伝統的な大規模大学と、パリ第8大学サンドニ校、第10大学ナンテール校のように設立当初から職業専門化を導入した形で新設され、その大学固有の特色を生かした独自の発展を遂げようとしている大学がみられること。
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