本年度は、メキシコにおいて「二言語・二文化教育」にわかって「二言語・文化間教育」が導入されるにいたるまでの先住民政策の変容とその背景を探るために、関連資料の調査および収集をおこなった。そして、収集した資料をもとに、二言語教員を中心とした先住民の団体(全国先住民審議会や全国二言語先住民専門職同盟など)が組織された歴史的経緯やそれらの団体の主張を明らかにし、先住民の要求が教育省の組織の改変や政策の変化にどのような影響を与えたのかを検討した。また、1980年代以降のグローバル化時代における国内外の政治経済的状況の変化のなか、メキシコ政府が積極的に新自由主義的な政策を推進することによって、先住民に対する教育政策がどのような影響を受けたのかを明らかにした。同時に、グローバル化時代における国際的な人権意識の高まりが、先住民およびメキシコ政府に与えた影響もあわせて考察した。こうした研究から、メキシコを「複数文化」の国と規定した1992年の憲法改正やそれにともなう教育法の改正、先住民教育に関わる新たな理念や方法の導入など、グローバル化の影響のもと大きく変化する先住民政策の策定および実施に、先住民自身が深く関与してきたことが明らかとなった。この成果を踏まえ、先住民教員を中心とした組織や国際的状況の変化が、先住民の権利やその文化の価値の承認にとって大きな意義をもったと同時に、先住民社会がおかれている状況の改善にとって新たな問題が生じる危険性をも抱えていたことを検討し、論文として発表した。また、二言語教員の養成については、その前史となる20世紀前半の先住民教育の問題を教員に焦点をあてて整理し、それを研究集会において口頭発表したが、その後の変遷や具体的な養成プログラムなどについては十分に検討できなかったため今後の課題となった。
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