24年度の調査は、従来のフィールドに寧夏と雲南の回族の割礼の調査を新たに加えて行った。 寧夏回族自治区において、かつて回族の成年儀礼として位置付けられていた割礼の慣習について調査を実施した。割礼という慣習は現在、如何なる意味づけをされているか、都市と農村での実施状況に差異がみられるか、いかなる論理で実施され、また否定されているか等を、アホン(清真寺の聖職者)、割礼体験者及び研究者に対するインタビュー方式を用いて調べた。割礼の意義について、アホンの多くはイスラム教徒して必ず行うべき「聖行」と強調するが、一般的には衛生学的見地から説明され、霊武市のように、ほとんどの人が病院で割礼を受けている実態が明らかになった。伝統的な儀式を伴って行うのは稀であり、大抵辺鄙な村が多く、中には寺院に医者を呼んで行うケースもあり、実態は多様である。成年儀礼としてより衛生学的視点からの外科手術と見なされる場合がほとんどであり、若者の中には割礼を「封建迷信」的で、恥ずべき習慣として受け止める者も少なくない。 なお、四川省丹巴県中路郷周辺のチベット族の女子を対象とした成年儀礼、貴州省从江県岜沙ミャオ族村ミャオ族の「キホウ」(男子の成年儀礼)、雲南省西双版納基諾郷のジノー族の成年儀礼については、今までのインフォーマントを再訪問する形で、新しい情報の収集と既得データの最終確認を行った。特に、岜沙ミャオ族村ミャオ族の「キホウ」の儀式の現状について、新たに異なる年齢層のインフォーマントを追加することで、この伝統に対する村人を意識と考え方を把握することが出来た。とりわけ、「フークン」という特殊な髪型の由来、「キホウ」の儀式の必要性が如何に説明され、またそれが伝承されるためには如何なる課題が残されているか等について、新しい情報を収集することが出来た。
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