本研究の目的は中国の大学院における「専門職学位」プログラムの卒業生の社会的評価の実態を明らかにすることである。昨年度のMBAを中心にアンケート調査のデータ分析を行なった上で、今年度は法律修士と教育修士のデータ会析も加え、比較研究を進めてきた。その結果として、進学してから昇進した者、転職した者、そして年収が増加した者の比率において、いずれもMBAの方が高い。また、年収増の要因に関する重回帰分析の結果、勤務年数、年齢と有意な相関を持たず、昇進、転職と有意な相関をもっている。そこから中国組織の人事制度の特徴が伺える。 また、卒業者本人から見た「専門職学位」の社会的評佃について、三つの専攻を比較分析した結果、MBA取得者は極めて高いのに対して、法律修士が相対的に低く、教育修士の場合では二極化となっている。このような異なる社会的評価を生んだ要因として、まず(1)専門職学位課程を設置する段階での構想・設計のプロセスをしっかり踏んでいるかどうかがあげられる。設立当初に明確なモデルを有し、実験を積んだことがMBAの高い評価につながっていると考えられるが、法律修士の場合は専門職労働市場に関する分析や熟議がかけている状況の中でスタートしたことが教員や学生のモチベーションに影響を与え、高い評価を得られなかったと推測できよう。また、(2)教育内容や方法が専門職の人材養成に対応しているかどうかも重要である。例え法律修士は非法律専攻の大卒を対象に複合的人材の育成を掲げられているが、その目的に適応するカリキュラムとはいい難い状態であること、また教育修士は教育経験を有する者と有しない者に類似するカリキュラムの提供から生じた評価の差からもこの問題を示している。 さらに、調査結果から卒業者が今後転職の予定をもっている者が多くみられ、転職予定の有無は「職業的評価」と負の相関、「転職経験の有無」と正の相関をもっていることが明らかとなった。そこから転職した者はさらに転職を希望し、持続的な上昇志向が強いという特徴が伺え、人事評価や社会文化がキャリア志向に左右しているといえよう。
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