本研究は、労働市場に参入後に再教育を受けるパタンを「流動モデル」とし、教育終了後に労働市場に参入する「固定モデル」と比較することで、大学院教育の効果を検討することを目的とする。調査対象は、専門職大学院の在学者であり、就労経験のある「固定モデル」と、就労経験のない「固定モデル」に対するアンケート調査によって検討し、さらに、専門職大学院修了者に対するインタビュー調査によって、大学院教育の効果とその仕事に対する影響を検討した。 「流動モデル」の在学者は、「問題に取り組むための見方」、「社会が直面する問題の理解」、「幅広い知識・教養」などの総合力においても、「文章表現能力」、「プレゼンテーション能力」などのスキルに関しても、「固定モデル」の在学者よりも、大学院在学中に力を伸ばしている。こうした力を伸ばしたのは、学士課程における学習という初期条件によるものではなく、むしろ、大学院での学習時間や大学院教育に対する満足度に影響される傾向がみられる。さらに、明確に切り分けることはできないが、力を伸ばしたことに対する、就労経験の効果も否定することはできない。 「流動モデル」の大学院修了者に関しては、大学院での学習が、日常の仕事に活きているという実感をもつ者が少なく、一見、大学院での学習と日常の仕事との関係はみられない。しかし、「仕事に行き詰ったときに大学院での学習を思い出して、問題を整理しようとする」、「仕事を俯瞰できるように感じることがある」といった回答から、大学院教育の効果は非日常的な場面で表れている。 「固定モデル」の修了者を選定することができず、修了者間で2つのモデルを比較することができなかった。これについてさらなる検討を進めることを、今後の課題とする。
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