本研究は、現代米国における批判的ペダゴジー理論の再検討と、その実践的諸相を明らかにすることを目的としており、そこで得られる知見に基づいて、前ブッシュ政権のNCLB法による教育改革を受けて新たに展開されつつあるオバマ政権の教育改革動向を分析することを目的としている。 年度途中で異動が生じ、所属研究機関を移ったため、実施計画に沿った研究の遂行ができず、本格的な調査旅行が異動後の年度終盤にずれこみ、成果発表は文献レベルの資料に基づく小さなものに留まった。 まず、批判的ペダゴジーの理論を再検討するためにリベラリズム思想関連の主要文献を読み進めていたが、ロールズが『正義論』ですべての人々に適正に配分されるべき社会的基本財のひとつとして(社会的弱者の教育問題を考える上でとくに重視すべき要因のひとつである)「自尊感情」を掲げたことを確認し、それに基づいて米国における実践事例を紹介する小論をものした。 また、学会発表では、批判的ペダゴジー論におけるかつての主要キーワードであったhidden curriculum概念を、ポストモダン社会においてどのような意味付けができるかという点に関して、主にフランスの思想家ドゥルーズの「制御社会」論に基づいて議論し、本研究の理論的視点の明確化につなげる作業を進めた。 調査旅行では、批判的ペダゴジーの実践的諸相を探るべく、その方面の実践家との面談、及び学校訪問を実施した。この取材結果を活かして、現在、批判的ペダゴジーの実践事例集であるDemocratic Schools 2^<nd>ed.の翻訳を進行させている。できれば、今年度中の脱稿、出版準備に入りたいと考えている。
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