研究概要 |
本研究は、現代米国における批判的ペダゴジー理論の再検討と、その実践的諸相を明らかにすることを目的としており、そこで得られる知見に基づいて、前ブッシュ政権のNCLB法による教育改革を受けて新たに展開されつつあるオバマ政権の教育改革動向を分析することを目的としている。 今年度進めた研究活動は、主として以下の4点に集約される。 第1に、批判的ペダゴジー論をカリキュラム論全体の諸類型の中に位置づけると同時に、カリキュラム論の一類型としての批判的ペダゴジー論を、[規範・提言-記述・分析]及び[理論・基礎-実践・応用]という二つの軸を設定することで、さらに類型化し、実践的諸側面を含む批判的ペダゴジーの全体像を俯瞰する理論的枠組の構築を試み、カリキュラム学会第22回大会で発表した。 第2に、アメリカ合衆国において、NCLB制定以降においても、批判的ペダゴジーと呼びうるような、あるいは、これに親和的な、「社会的公正」や「民主主義」を理念として掲げる進歩主義的な方法論を実践的に展開している初等・中等教育段階の主として公立学校を対象として、調査取材を実施した。そこでは、NCLB法による施策によって、多くの学校が、この法律で要求される特定教科のペーパー試験による成績向上のための教育に、ますます大きな比重を置くようになるなかで、これに異論を唱えながらも、この状況に適応しつつ、進歩主義的な実践を展開している学校の事例を収集した。 第3に、上記調査取材で得た情報を活かしながら、批判的ペダゴジーの実践論文集と呼びうる著作(M. Apple and J. Beane eds. Democratic Schools, 2nd ed. Heinemann, 2007)の全訳を進め、出版に向けた準備をほぼ完了した。この翻訳の一部は、研究代表者が解説している個人ブログですでに公開している。 第4に、これらの研究のごく一部を、中国長春における個性化教育に関する実践研究会において紹介し、民主主義社会の構築に寄与しうる学校教育の実践的可能性に関して論及した。
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