本研究の調査地にはある「日本語教室」があり、この教室の存在が中国人コミュニティの形成に重要な役割を果たしたことがこれまでの調査から分かっている。本年度はこの教室が発足して20年目に当たることから、当時この教室を立ち上げた教員達に聞き取りを実施し、大阪府在日外国人教育研究集会で記念報告をした。その過程で明らかになったのは、彼らが地域においては同和地区の識字教室や補習教室をモデルに「日本語教室」を立ち上げる一方で、学校においては、在日朝鮮人教育における教育実践をモデルに中国残留婦人の三世達に本名(中国名)を名乗らせ、中国人教師を民族講師(常勤講師)として起用したという事実である。彼らはみな教員としてのキャリアを同和教育推進校でスタートさせた当時40歳前後の働き盛りの教員だった。彼らにとって、中国残留婦人の三世の教育は同和教育や在日朝鮮人教育の「応用問題」であり、本研究の調査地はそうした教育理念の「実践場」だったということになる。本研究では中国人コミュニティの中で中国人として育つことが中国出身生徒の進路形成に好ましい影響を与えているのではないかという見通しの下で調査を進めているが、そのような教育環境をいつ誰がどのように整備したのかを明らかにできたのが今年度最大の成果だった。 また、上記の他、2000年国勢調査のデータ(非公開データ。オーダーメイド集計による)を分析した結果、16~17歳の高校在学率は、日本人が90~95%だったのに対し、中国人は75%だった。また、日本に5年以上住んでいた20~21歳の大学(短大は含まない)在学率(すなわち留学生や帰国子女を除いた在学率)は、日本人が30~35%だったのに対し、中国人は30~40%であった。日本語学校や大学に通う留学生を除く中国人の高校在学率や大学在学率を算出したのは本研究が初めてであり、その意義は大きいと思われる。
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