■中国における海外調査に関しては、8月中旬から約35日間中国(方正県・長春市・大連市・栄成市・北京市)に滞在し、子どもが日本にいるという人々や、孫を連れて中国に一時帰国している人々等を訪ねて歩き、インタビューを実施した。また、11年ぶりに中国に長期滞在することを通じ、自分の頭の中の中国社会をアップデートすることができた。特に地方都市や農村の変化には目を見張るものがあった。農村からは「年貢」とあぜ道と子どもたちが消え、地方都市では自動車と信号機とマンションと全寮制の小学校が増えて高校進学率も急上昇していたし、大都市では地下鉄が伸びて高層マンション群が林立していた。中国残留婦人の子や孫が中国を離れた1990年代とは比べものにならないくらい、中国は暮らし易くて帰り易い国になった。そして、このことが(日本経済の停滞と相まって)中国帰国者達の一時帰国(というより長期帰国)を後押ししている実態が良く理解できた。■大阪府の調査地での聞き取りの継続に関しては、5月に調査地において「日本語識字学級20周年式典」があり、1990年代に小中学生として日本語識字学級に通っていた中国出身の若者が多数集まった。若者達は数年ぶりの再開を互いに喜んでいた。私はその式典を企画する側だったが、来場した多くの若者と連絡先を交換することができたし、結婚や就職で地元を出て行った若者達の近況について尋ねることもできた。ただ、このようにして構築した関係を使っても、107人の調査対象のうち、結婚について調査できたのは66人、就職について調査できたのは50人に留まった。また、若者を対象とした聞き取りの実施・整理・分析も思うようには進まず、当初予定していたモノグラフの出版は次年度以降に持ち越されることになった。■国勢調査の詳細な分析に関しては、他の研究プロジェクトの予算により実施可能となったので実施しなかった。
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