本年度は、ブリティッシュコロンビア・ファーストネーションズ教育自治権限法( 2006)の制定過程ならびに法の運用実態を解明するべく、サーニッチ民族およびギックサン民族の取り組みを中心に資料収集および分析をすすめた。また、同法の適用を受けようとする先住民族自治体の教育実践に関する資料を収集し、分析を進めた。同法は、連邦および州政府と先住民族自治体が締結した教育自治権限に関する協定を法的に保障するものである。明らかにし得たと考えることは以下の諸点である。 ファーストネーションズ教育自治権限法が制定される以前、1980年代から2000年代にかけて、通常の学校運営費の他には何らの財政的保障もない中で、先住民族自治体が独自に、児童生徒の先住民族教育権を保障しようと、言語・文化の教授を行うとともに、中等教育終了率を高め、州政府が公認する高等学校卒業資格の取得者を増やす取り組みを展開していたことを明らかにした。 先住民族教育自治権限を得ようとする先住民族自治体ほど、基本的には、州政府が規定する学力水準を受容し、むしろ積極的に州が求める学力を確保させようとしてきたことを明らかにした。同時に、州が求める学力水準を確保するためにこそ、先住民族言語文化に配慮した独自の教育課程の承認を州政府に迫り、州のカリキュラム自体を変更することを迫っていたことも明らかにした。 一方、連邦政府は同法が規定する「教育自治権限最終協定」の締結に消極的であり、法制定後の施策は、先住民族の教育に対して連邦政府が負っている「最高度の誠意をもってその最善の利益を図る義務」を放棄しかねないものであることを明らかにした。さらに、2006年の法制定後、いまだに教育自治権が承認された先住民族自治体はなく、当初、自治権限を得るべく交渉に臨んでいたものの、交渉から撤退した先住民族自治体があることを明らかにした。
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