中国は2010年公表の「中長期国家教育改革・発展計画要綱」において、1990年代末からの高等教育の急速な拡大、大衆化の実現をふまえて、さらに重点的な投資による研究教育の質的向上を目指して「世界一流大学」の創造を重点的な政策とした。これは中国の国家戦略の重要な一環でもある。 すでに約10年前1998年から、中国政府は「985工程」プログラムを発足させ、重点的な研究大学の育成をはかってきたが、それがいま新たな段階を迎えているといえよう。これにしたがって、人材戦略、学科建設戦略、国際化戦略が強化されるようになり、人事制度改革、財政投資の重点的配分、大学運営の体制的メカニズムの改革実践が進められている。 今年度の研究としては、上記「要綱」を翻訳し、その内容を分析した上で、こうした世界一流大学創造の対象となる北京大学、清華大学、北京師範大学、浙江大学、中山大学などについて、文献調査および訪問調査を行った。 この調査によって、これらの大学においては、重点学科・領域の育成、教育研究の国際競争への参加をめざして、世界各国から優秀な研究者を高額の報償によって誘致・獲得する試みも行われていること、また優秀な研究成果に対しては奨励金を与えるなど、成果主義の徹底がはかられていること、さらにこうした政策の結果として、大学の国際交流、管理運営、教育研究活動、産学官連携などの領域で、大幅な進展がみられていることが明らかになった。 しかし他方で、極端な競争主義による深刻な問題も生じており、大学における拝金主義、拝権力主義の横行がマスメディアによって報道され、大学の文化的・社会的な使命そのものが危機にあるという批判も少なくないことも確認された。
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